l  「労働力不足」で追い詰められている経営者は必死です。「受注はあるのに残業は増やせない」「募集をかけても日本人は来ない」「末端価格が上がらない中での単価の引き上げは難しい」という困難な局面の中で、外国人労働者の受け入れを選択し、技能実習生やアルバイトに依存するようになりました。しかし、そうした裏口からの外国人雇用において様々な問題が発生し、制度上の無理も生じたため、今回安倍政権が「特定技能」の新設を含めて、「外国人受け入れ政策」を決意しました。そのことは、施策の詳細や現場を担う入管の思惑はともかくとして、「政策論」としては正しい方向です。これ以上、「経済メカニズム」を無視して、人工的な「労働力不足」を演出し、その不足度合いをさらに加速することに、政策上のプラスはありません。

l  しかし、詳述したように、日本経済が抱えている病巣は、それだけで解決されるような生易しいものではありません。人口減少で国内市場が細っていくとみられる中で、「年功序列型賃金」や「年次競争システム」に代表される人事制度とマネジメントを抜本的に変革することが必要だからです。これは、単純な財政出動や金融緩和で解決できる問題ではありません。経済政策を立案する際には、この難題を解決するまでは、「労働力不足」によるマイナスの影響を「外国人受け入れ政策」で点滴しながら耐えしのぎ、日本人にも外国人にもフィットし、「頑張れば報われる」という人事制度に組み替えて、日本企業が新たなマネジメントの中で完全復活する準備が終わるまで、相当困難な綱渡りをしなければならないと覚悟しておくべきです。

l  現在の日本企業が抱えている「労働力劣化」を解決するためには、就労者に「夢」を与える人事制度が絶対に必要です。また、それは同時に、これから採用する外国人にも「夢」を与える制度であるべきです。いま日本企業は、グローバルな人材獲得競争においても負けない人事制度を構築して、実際に運用することが求められているのです。そのためには、「5年~10年で年収1000万円になれるチャンスを与える人事を可能にする制度をイメージする」ことが重要になってきます。これは、「同一労働同一賃金」と同じく、「年功序列型賃金」や「年次競争システム」を改革することを必要とします。若者だって、女性だって、中途入社組だって、外国人だって、日本企業において、「向上心があって、勤勉で、ハードワークを厭わない」活躍をして、成果を上げれば、「5年~10年で年収1000万円になれるようなジャパニーズドリームを創る」ことが求められているのです。

l  かつて、アジアで一番高いとされてきた日本の賃金は、中国や韓国の一部の大企業と比べて後塵を拝しつつあります。例えば、民泊仲介サイト世界最大手・米Airbnbの韓国におけるコールセンターの仕事だと、週5日・1日8時間勤務で、月給最低200万ウォン(約20万円)、退職金やボーナス、社員寮がついていると言います。実際、最近も、約20人の日本人スタッフが韓国で就労していました。日本だと、コールセンターの平均時給は、アルバイトで990円~1100円で、派遣社員だと1200円~1340円。最大値の1340円で18時間週5日を4週間働いたと考えると214400円になります。要するに、韓国だとほぼ賃金が同程度で、退職金やボーナス、社員寮があるということなので、「日本国内より高い」「自分より高待遇」という評価になっているのです。また、若者の高い失業率に喘いでいる韓国では、その若者たちを日本企業で就職させる施策を打ち出していますが、その担当の外交官ですら、「日本企業は初任給が安いでしょ。日本で労働力不足だという職種は、その中でもさらに給料が安いことが多い。韓国企業の方が高い給料を出すから、韓国の若者はその水準を考えながら就職先を探そうとする。ミスマッチが多くて苦労するんですよ」と語っています。

l  ちなみに2017年の採用市場においては、中国の通信機器大手ファーウェイが日本で大卒エンジニアを「初任給40万円」で募集したことが話題を集めました。日本の大卒初任給の平均は20万円で、エンジニアであろうと事務職であろうと初任給は変わりませんから、「優秀な人材が流れてしまうのではないか?」と大激震が走りました。じつは、エンジニアの給料が高いのはファーウェイに限りません。中国のハイテク企業のエンジニアで年収1000万円を下回る人はまずいないとも言われています。いま日本企業は、「優秀な人材に夢を与える政策」で後手を取り、完全に後れているのです。

l  実際、スイスのビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)が2017年、世界の高度技能者を対象に実施した調査によると、日本はアジア圏で「最も働きたくない国」だと認定されました。世界63カ国の中でも51位と非常に低いステイタスです。また、英大手人材会社HAYSが、この116日に公表した調査(世界33の国と地域を対象)でも、日本は、IT分野などの高度なスキルを持つ人材を確保するのが最も難しい国だと認定されています。「横並びの給与など従来型の評価制度や日本の教育内容に問題がある」ということが理由として説明されました。彼らが問題視している「従来型の評価制度」とは、「年功序列型賃金」や「年次競争システム」を意味しています。

l  実際、賃金構造基本調査(2019年)を見ると、最も高い大企業(男性)の賃金カーブですら、202422.0万円(年収換算264.0万円)➡252926.6万円(同319.2万円)➡303431.8万円(同381.6万円)➡353936.4万円(同436.8万円)➡404440.9万円(同490.8万円)という水準です。したがって、いまの日本企業の給与体系の下では、「510年間で年収1000万円プレーヤー」という夢を与えることはできません。そういう施策を打たずに、「特定技能」の単純労働者ばかりを議論しているから、「外国人受け入れ政策=低賃金の単純労働者受け入れ」と批判されるのです。そういうマイナスイメージを払拭するためにも、日本企業は、「510年間で年収1000万円プレーヤーになれる」という人事体系を打ち出すべきです。

l  日本企業がその夢を与えるためには、「年功序列」や「年次競争システム」を壊さなければ不可能です。しかし、ベンチャー企業や一部のIT企業では、すでに現実的に対応していることでもあります。何らかの形で「飛び級的」「飛び年次的」な人事制度を導入して、実質的に「年功序列型賃金」や「年次競争システム」から抜け出した人事制度を導入することが必要になってきます。そして、そうした人事改革が必要であることを理解し、行動に移した日本企業が生き残っていくことになるでしょう。そして、多くの日本企業が「年功序列型賃金」や「年次競争システム」を大改革し、「職務給」的な体系になり、実力に見合う給与を支給できるようになれば、「上昇志向はなく、プライベートに熱心で、ハードワークを厭う」というキャラクターになってしまった日本人労働者の中から、「向上心があって、勤勉で、ハードワークを厭わない」という美質を持つ人材が選別されてくるでしょうし、転職の際における外様社員の差別は、いまよりもずっと緩和されるはずです。

l  2019年は、「労働力不足」の中で、少なからぬ企業がさらに厳しい事態に追い込まれていきます。そんな中、外国人労働者の受け入れによって、「労働者不足」の問題が緩和される期待が醸成されていきますが、今度は、「労働力劣化」の問題が表面化してきます。しかし、入管の現場が、外国人労働者の受け入れ増大に対して嫌がらせをする場合は、「労働者不足」と「労働者劣化」のダブルパンチが、経営者に見舞われることになるでしょう。実際、審査の現場を窺うと、入管は外国人労働者の受け入れに賛同していない節が随所に感じられます。また、本稿では触れていませんが、消費税が増税されれば、メガトン級のダメージが襲い掛かります。そういう意味で、2019年は、2018年よりも厳しい年になることを覚悟する必要がありそうです。
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【Timely Report】Vol.320(2019.1.4)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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