外国人経済研究所

外国人と経済の関係を解き明かしていきます。

タグ:賃上げ

l  2025年問題」と呼ばれる難問があります。2025年は人口の多い「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になる年。後期高齢者が増えれば、それに比例して要介護者も増えます。各地方公共団体も人材確保に動き始めました。

l  介護事業者の人手不足は本当に深刻。特別養護老人ホームは、割安なので入所希望者が多いのですが、所定の職員数が確保できないため、受け入れられないというケースが頻発しています。全産業の平均月給が304,300円なのに、訪問介護員の平均月給は198,486円であり、経済評論家は「人が集まらないのであれば、賃金を上げるべき」と断言し、経営者を厳しく批判します。

l  しかし、日本における介護ビジネスは、「介護保険」という枠組の中で成り立つ半官営事業。国が商品の中身と価格を決めている以上、民間企業としての知恵の絞りどころはコストカットのみ。賃金を上げさせたいのなら、介護保険料を引き上げ、保険料の支払年齢を40歳から30歳に引き下げた上で、国が支払う介護価格を引き上げるしかありません。そういう点に触れないで、すべて民間企業の責任に擦り付けるというのは卑怯な論法です。

【Timely Report】Vol.372(2019.3.21)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

BLOG記事「アベノミクスには期待できない!」も参考になります。

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l  富裕国だったベネズエラが大変なことになっています。「21世紀の社会主義」を掲げ、賃上げや所得補填などで富裕層の富を貧困層に分配したところ経済が破綻。生活に困窮した人々が「移民」となって隣国に押し寄せています。

l  ベネズエラの惨状を見た韓国の主要紙が「韓国もベネズエラの二の舞になる」として文在寅政権の経済政策を大批判。経営の現場を無視した賃上げ政策の撤回を求めています。「最低時給1000円」を掲げる「所得主導成長論」が想定していた「賃金増➡雇用増➡消費増➡業績好転」というシナリオは実現せず、「賃金増➡雇用減➡消費減➡業績悪化」に陥ったと指摘しています。

l  じつは日本も韓国と同じ。「所得主導成長論」を掲げて、「賃上げすれば景気は良くなる」という前提で経済政策が運営されています。経営の現場を無視し、「物価が上がれば景気は良くなる」「時短をすれば生産性は上がる」「人手不足になれば経済は良くなる」という勘違いの中で、誤った賃上げ政策が処方されれば、経営の現場が疲弊するのは必至。20年後に日本が韓国やベネズエラのようになっていないことを切に望みます。
ドル, お金, 緑, ファイナンス, 金融, ビジネス, 成功, 投資, 現金
【Timely Report】Vol.240(2018.9.5)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

BLOG記事
経済政策が韓国を殺す!」も参考になります。

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l  経済政策は、ここまで述べてきた経営の実態を含んだ「経済メカニズム」を十分に理解していないとうまく機能しません。ここでいう「経済メカニズム」とは、①企業運営の実際と経営者の行動や心理、②労働者の行動や心理、③消費者の行動や心理、④それらすべてをひっくるめた物価や賃金を決定する市場メカニズムの機能、⑤企業運営の実際と市場メカニズムの機能とのフィードバック、のことを指します。残念ながら、学者たちは④の表面しか語れず、せいぜい②と③を付け足して終わりというケースがほとんどです。

l  しかし、本当に日本経済を改善したいのであれば、①~⑤のすべてを含めて現状を的確に分析し、適切な経済政策を講じなければ、政策は有効に機能しません。そして、既に導入した諸政策に関しても見直す必要があるのであれば、正しく訂正する必要があります。その意味で、現在の経済政策については、手直しすべきところが多々ありますが、中でも、今後の日本経済に多大な影響を与え得るという点で懸念されるのが「働き方改革」です。その中でも、20194月(中小企業は20204月施行)に施行される「時間外労働の上限規制」(月45時間かつ年360時間が上限)は、刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)まで導入しているので、ひとつ間違えば、「韓国の悲劇」(後述)を後追いすることになります。

l  まずは、現実を直視しましょう。従来、暗黙裡に想定している「向上心があって、勤勉で、ハードワークを厭わない日本人」という仮定を捨てて、「上昇志向はなく、プライベートに熱心で、ハードワークを厭う日本人」しかいないと考えてみてください。その環境下で、「労働時間を減らせば、労働生産性は向上する」という短絡的な思考で展開されている「働き方改革」が、どのように機能するかを想像してください。かつてのように「向上心があって、勤勉で、ハードワークを厭わない」人材ばかりなのであれば、確率は低いとは思いますが、百歩譲って、「時間短縮➡創意工夫➡生産性向上」という可能性はゼロとは言いません。しかし、「労働力劣化」が進み、「上昇志向はなく、プライベートに熱心で、ハードワークを厭う」という性質に変質していたとすれば、生産性向上が起こる可能性はゼロであり、時間短縮により、生産力劣化や生産量過少が発生することが明らかです。もっと言えば、何か不満があれば、労働基準監督署や悪徳弁護士に駆け込み、「法令違反」だと喚き散らす輩を増殖させるだけでしょう。ヒドイ企業があることは否定しませんが、クレーマー的な労働者がいることもまた事実です。

l  「上昇志向はなく、プライベートに熱心で、ハードワークを厭う」という労働者が無視できない数になっている中で、時間短縮により生産性が向上する可能性はありません。企業運営を困難化させるだけです。無論、経営者が労働者の能力や生産性を向上させることに匙を投げて、省力化投資やAIなどの機械化に走る可能性は否定できません。しかし、その経営行為は、「労働者の排斥」であって、「労働者の生産性向上」ではありません。

l  この点も、十分に理解せずに空論を唱える論者が多いので指摘しておきますが、賃金と生産性の関係でいえば、労働者の賃金が上昇するのは、「労働者の生産性」が向上したときであって、省力化投資による機械化によって「会社の生産性」が向上したときに、「まず労働者に配分すべき」と考える経営者はいません。無論、「会社の生産性」が向上したため、労働者の賃金を引き上げる余裕が生まれる中で、労働需給が逼迫していることを勘案して、賃金UPに同意することはあるでしょう。しかし、機械化によって「会社の生産性」が向上したときに、経営者が真っ先に考えるのは、機械のメンテナンスや劣化防止や性能向上であって、賃金UPではありません。生産性の向上をもたらしたのは「機械」であって、「労働者」ではないからです。

l  今でも、「賃金が上がらないのは、人手不足が足りないから」という誤診をしている論者は少なくありませんが、現状は、需要増に牽引される「好景気」ではなく、単なる「人手不足」。需要が弱いから値上げしたらお客さまは離れるだけです。それを熟知しているから、経営者たちは「人手不足➡賃金上昇➡価格上昇」という針路ではなく、時短や休業という「労働投入量の減少」を選び、「人手不足拡大抑制賃金抑制縮小均衡」という針路をとっているわけであり、そういう中で、労働力の減少を補うために省力化投資を行う企業は、いずれ増えていくと思われます。しかし、機械化により「会社の生産性」が向上したからと言って、それが賃金UPにストレートに反映されるわけがありません。労働者自身の生産性が向上したわけではないからです。

l  経営者の立場から見れば、賃金の上昇は、あくまでも「労働者の生産性」の伸びの範囲内にとどめられるべきものであって、労働者自身の努力や生産性向上なしに賃金上昇などあり得ません。ところが、マスコミにおける議論は、「労働者自身の生産性」の話なのか、「機械化による生産性向上」の話なのかがわからない。じっくり聞いてみると、日本共産党のように、「これまで企業は搾取してきたのだから労働者に返せ」みたいな議論だったりします。生産性向上と賃金に関する議論は、厳密に場合分けした上で論じるべきです。

l  日本が「働き方改革」を本格的に実施する前に参考にしておくべき経済事象として、「韓国の悲劇」を紹介します。「経済メカニズム」を無視して、経済政策を実施すると、手痛いしっぺ返しを食うという良い見本です。韓国の文在寅政権は、「所得主導成長論」を掲げて、「賃上げすれば景気は良くなる」という前提で経済政策を運営しました。元々、支持基盤の労働者層への支援として、「2020年最低賃金1万ウォン」を公約に掲げ、日本を上回る最低賃金(約1000円)に引き上げることを約束して、文在寅氏が政権奪取を果たしたという経緯があります。この約束を無下にすることはできません。

l  実際、最低賃金の引き上げは急ピッチで実施されました。2010年に4110ウォンだった最低賃金は、毎年68%ずつ上昇し、2017年には6470ウォンに。これだけでも中小企業にとっては軽くない負担増でしたが、文在寅政権発足以降、2018年に16.4%上昇(7530ウォン)。さらに2019年には、これが10.9%上昇して、8350ウォン(約835円)にすることになりました。その上、今年の71日からは労働時間の上限を、残業を含め週52時間に短縮することを柱とした改正勤労基準法も施行。従業員300人以上の企業等に適用され、2021年までに中小企業にも適用します。まるで安倍政権の「働き方改革」を先取りしたのではないかと思いたくなるほど酷似しています。

l  しかし、その結果、最低賃金の引き上げと労働時間の週52時間制で零細企業と自営業者らの経営は委縮し、少なからず破綻しました。韓国の銀座と呼ばれる明洞でも店舗の閉鎖が加速し、雇用の縮小を招いています。経営者たちは、「美容室の経営者も月200万ウォン(約20万円)を稼ぐのが難しいのに、最低賃金が上がり、洗髪もまだ慣れていない補助職員に多くの時給を支払わなければいけない」「今年の最低賃金が16.4%も上がり、職員1人を解雇した。代わりに肩の手術を昨年2回も受けた父が朝から手伝っている」「昼食時間の商売だが、120皿ほど売っていたのが今は7080皿しか売れない。こういう状況で最低賃金を上げるのは商売をやめろと言うのと変わらない」「すでに自動車産業など一部製造業の正規職の賃金は日本企業よりも高い。これ以上、人件費が上昇すると、どうやって競争力を維持するのか」などと口々に叫びました。野党は、これに呼応し、「自営業者はすでに死にかけているが、薬を与える考えはなく、政府は信じて待ってほしいという言葉を繰り返している」「国民の生活を改善するためには、商売がうまくいって売り上げが増えなければいけない」「与党に警告する。現場に答えがある。出てきて耳を傾けるべきだ」と批判しました。自民党も気を付けるべきです。

l  2015年~2017年の3年間、月平均の「就業者増加数」は概ね30万人でしたが、2018年の16月の平均は142000人と半減。業種別に見ると、「卸小売業」「宿泊飲食業」「施設管理業」で就業者数が大幅に減少しており、1月の最低賃金引き上げ後、職を失う例が多く見られました。就業者増加数は、78月には2カ月連続で1万人を下回り、失業者も増加。7~9月期の月平均失業者は、前年同期より102000人増えた1065000人で、通貨危機の後遺症に苦しめられた1999年に1332000人を記録してから最も多い数になりました。7~9月期に失業者が100万人を超えたのは19年ぶりです。さらに、不況の中の物価高(スタグフレーション)が進んでおり、農産物、外食費、ガソリン代などの価格が全般的に上昇しています。

l  9月の鉱工業生産指数は前年比▲8.4%と不振。9月の設備投資指数も前年比▲19.3%と急降下。「景気はピークを越え下振れリスクが強まった」とみるエコノミストが増えています。文在寅政権は、大企業や財閥主導で経済のパイ全体を拡大させるこれまでの経済政策とは一線を画し、「賃上げ➡消費拡大➡企業業績向上➡投資拡大」という経路を目論んでいました。ところが、最低賃金が一気に上昇しため、雇用主は、人件費を抑えるため「雇用削減」に踏み切ります。大幅に引き上げられた「最低賃金」を守るために、雇用する従業員を1人、2人と減らすことで対応したわけです。「所得主導の成長」どころではありません。最低賃金で働く従業員同士で「雇用」の奪い合いが起き、全体として雇用は減少しました。これが誤った経済政策の帰結です。

l  自営業者や中小企業は、最低賃金を来年時給8350ウォンにすると決めた政府に猛反発。8月末には3万人のデモを決行し、経営の現場を無視した政策の撤回を求めました。「最低時給1000円」を掲げる「所得主導成長論」が想定していた「賃金増消費増業績好転雇用増」というシナリオは実現せず、「賃金増雇用減消費減業績悪化」に陥っています。この事態を重く見た文在寅大統領は、119日に「所得主導成長論」を主導してきた金東兗・経済副首相兼企画財政相と張夏成・大統領府政策室長の2人を更迭しました。経営の現場を無視し、「物価が上がれば景気は良くなる」「時短をすれば生産性は上がる」「人手不足になれば経済は良くなる」という勘違いの中で、誤った賃上げ政策や「働き方改革」が処方されたならば、経営の現場が疲弊するのは必至です。それは、韓国でも、日本でも変わりません。ちなみに、「ベネズエラの大惨事」(後述)を見た韓国の主要紙は、「韓国もベネズエラの二の舞になる」として文在寅政権の経済政策を大批判しています。

l  「経済メカニズム」を無視して経済政策を実施すると手痛いしっぺ返しを食った1998年の事例として、ベネズエラもご紹介しましょう。1999年に就任したチャベス大統領は「21世紀の社会主義」を掲げました。革命実現のため石油会社のPDVSAに対し国庫への拠出を増やすよう求め、経営の独立性を保ってきた同社と衝突し、200212月にはPDVSAを中心とするゼネラルストライキに発展。約2カ月に及んだストは失敗し、チャベス政権はストに参加した職員約2万人を解雇しました。全職員の半数におよび、経営経験が豊富な幹部や専門技術を持った職員が去りました。チャベス政権は「革命」に忠実な軍人や政治家ら「政治任用組」をPDVSAに送り込み、職員は10万人以上に膨れ上がりましたが、技術的・専門的な知識はありませんでした。

l  チャベス政権は、富裕層が独占していた富を国民の7割を占める貧困層に分配します。PDVSAから吸い上げた1000億ドル(10兆円)以上の巨額資金を社会政策に充てました。ベネズエラの輸出に占める石油分野の割合は9割になり、国家歳入に占める割合は5割にまで上昇し、石油依存が強まります。貧困層向けの無償住宅建設や無料診療所開設、格安の食料販売などを推進、貧困率や識字率も改善させました。その結果、貧しい人々を中心にチャベス大統領の人気は絶大なものになりました。チャベス氏の後、マドゥロ氏が大統領に就任すると、1バレル=100ドルを超えていた原油価格は、2014年から下がり始め、2016年には1バレル=40ドルに下落し、外貨が獲得できなくなりました。PDVSAは傘下企業への代金の支払いができなくなり、企業の撤退が相次ぎます。ベネズエラの原油は「超重質油」と呼ばれ、製品化のためには軽油と混ぜる必要があるのですが、外貨がないので軽油の輸入が難しくなり、原油の生産量が減少します。それが、PDVSAの経営難を惹き起こし、ベネズエラ経済を悪循環に陥らせました。

l  食料や生活必需品の不足など経済混乱が深まり、物価は急騰し、貨幣経済は崩壊しました。海外からの食糧や燃料、医療品の輸入はままならず、低い生活水準はさらに悪化。国の保健当局に予防や治療のための資源がないため、麻疹やマラリアも流行。首都カラカスのスーパーでは、牛乳やパスタが月給並みの値段で売られており、庶民には手が出ません。政府はデノミを断行し、クーポン券を発行しましたが、財政赤字を中央銀行がファイナンスしているだけなので、ハイパーインフレが悪化し、1カ月で物価が2倍になる勢い。インフレ率は年内に100万%に達するという説も。このため、ベネズエラから海外に脱出する難民は後を絶たず、周辺国にも悪影響が及んでいます。

l  1999年当時、ベネズエラは世界最大の石油埋蔵国にふさわしく豊かな国でした。しかし、原油収入を無尽蔵と考えた政府やハードワークを厭う国民は、経済メカニズムを軽視して、「宗教」に似た「社会主義」に突き進みます。石油を売って得た資金を持続可能な「経済メカニズム」を構築するために使わず、最低賃金の引き上げ、労働時間の短縮、無償福祉、公務員の増員という支出に回してしまいました。バラまかれた資金は投資・生産・雇用に結びつかなかったため、原油安で石油収入源が減ると財政が危機に陥り、貨幣を刷って国債を乱発。それで物価が上がると、市場価格を抑え、民間企業が破産すると国有化。今年5月、朝食の75%を供給してきた米国のシリアル会社ケロッグが工場閉鎖を宣言すると、マドゥロ大統領は「政府が没収して労働者の手で運営する」と宣言。支持した労働組合・学生・農民・原住民勢力は歓喜しましたが、シリアルが生産されることは二度とありませんでした。これが「経済メカニズム」を無視した報いです。

l  日本のあるエコノミストは、「現時点で日本は、ベネズエラとは違って外貨を稼げる企業がまだ数多くあり、経常収支は黒字だ。よって、当面はベネズエラの状況とは異なるのだが、財政赤字を日本銀行がファイナンスし続けることの危険性は意識する必要がある」と指摘しています。現時点において、日本経済に「ベネズエラの大惨事」が襲い掛かる可能性があるとは思いませんが、先に述べた「韓国の悲劇」でも明確に示されているように、「経済メカニズム」を無視した経済政策は、いずれ「経済メカニズム」から手痛いしっぺ返しを必ず食らいます。この大原則は、韓国やベネズエラだけにだけ適用されるのではなく、日本経済でも作用します。そして、日本政府は、未だに「物価が上がれば景気は良くなる」「時短をすれば生産性は上がる」「人手不足になれば経済は良くなる」などという「宗教」を信仰し、「経済メカニズム」を無視した経済政策を展開し続けています。

l  極めて重要なので繰り返して指摘しておきますが、「経済メカニズム」とは、①企業運営の実際と経営者の行動や心理、②労働者の行動や心理、③消費者の行動や心理、④それらすべてをひっくるめた物価や賃金を決定する市場メカニズムの機能、⑤企業運営の実際と市場メカニズムの機能とのフィードバック関係、のことを指します。これら①~⑤の観点すべてを踏まえた上で、適切な経済政策をタイムリーに講じない場合、「韓国の悲劇」は日本においても十二分に起こり得ます。最悪の場合、「ベネズエラの大惨事」だって、日本で絶対に起こり得ないとは言い切れないのです。
クラッシュ, 統計情報, チャート, グラフィック, バー, シンボル, 矢印
【Timely Report】Vol.320(2019.1.4)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  政策を処方する政策当局者と政策を客観的に評価すべきマスコミが結託して、宗教化した経済政策を推し進めようとするとき、それに異論を唱えても、効果はありません。逆に「ブラック企業」として袋叩きになるだけです。政策当局者が処方する誤った経済政策に対して、自らの企業と社員を生き残らせていくためには、自衛手段を講じるしかないと腹を括るべきでしょう。

l  実際に、経営の現場を窺うと、少なからぬ経営者は、政策当局者が思い描いている「人手不足賃金上昇価格上昇売上増大」という針路ではなく、「人手不足拡大抑制賃金抑制縮小均衡」という「まずはとにかく生き残る」ことを優先した経営戦略に切り換え始めています。つまり、成長を追い求める「売上増大」ではなく、生き残るための「粗利増大」を選択しているのです。そして、経営者が「売上増大」ではなく、「粗利増大」を優先すれば、コストのうちの大きな部分を占める賃金に対して、抑制的に臨むというのは至極当たり前の経営戦略になります。

l  日本銀行は、物価上昇率が目標の2%に達しないのは「人手不足の度合いが不十分だからだ」と公言し、このまま人手不足が続けば、賃金も価格も上がると予測しており、多くの経済学者たちも「人手不足なのに賃金が上がらないのは謎だ」とほざいて、「賃金が上がらないのは、人手不足が足りないから」という完全な誤診をしています。現状は、需要増に牽引される「好景気」ではなく、単なる「人手不足」。需要が弱いから値上げしたらお客さまは離れるだけです。それを熟知しているから、経営者たちは「人手不足賃金上昇価格上昇」という針路が誤っていることに気付いています。だから、時短や休業という「労働投入量の減少」を選び、「人手不足拡大抑制賃金抑制縮小均衡」という針路をとっているわけであり、「経営者目線」で見れば、賃金がなかなか上がらないのは極めて当たり前のことなのです。

l  人材を採用する「経営者目線」で見ても、目先の高い賃金に釣られて集まってくる人材は、目先の賃金の良さで辞めていく人材と同値であり、「安定的で健全な人手の確保」には貢献しません。提供する商品やサービスの価格を引き上げたときに、消費者が呼応してくれるかどうかわからない状況で、長期的に定着して貢献してくれるか否かわからない人材に対し、いたずらに賃金を引き上げれば、自ら首を絞めるばかりです。昨年4月、「脱デフレは大いなるイリュージョン」と喝破した岡田イオン社長の卓見に学ぶべきです。

l  労働市場の現状を確認しましょう。201711月の就業者数は6552万人(前年比+1.2%)に達し、既往最高の6679万人(19976月)まで、あと+1.9%のところまできました。これまでもそうですが、今後においても、「生産年齢人口」は着実に減少していきます。そういう中で、既往最高値を超えて、日本人の就業者がどんどん増えていくということを想定することはできません。実際、201711月における就業者数は、生産年齢人口(7611万人)の86.1%に達しています。19976月時点の同計数は76.8%(生産年齢人口は8699万人で既往最高)に過ぎませんから、生産年齢人口に対する就業者数の比率が10%ポイント近く上回る現時点の労働逼迫が尋常でないことは明らかです。日本人に関する限り、これ以上の労働者数を増加させることはかなり困難(=完全雇用がほぼ達成されている)とみるべきです。

l  賃金水準を引き上げることによって、これまで労働市場に参加していなかった労働者が、労働市場に参加して就労者になることにより、就労者数自体が増大するのであれば、経済全体として意義があります。しかし、完全雇用がほぼ達成されている中で就労者数が増えないことが見込まれるとすれば、ある企業における採用の成功は、他の企業における離職を意味しますから、ある企業で人手不足問題を解決したように見えても、新たな人手不足を招来するだけになってしまいます。これでは、経済全体としては意味を為しません。これは、経済学の初歩である「合成の誤謬」と言われる現象です。

l  このような経済環境の下で、数多くの企業が賃金引き上げ競争に加われば、耐えられなくなる企業が出るまで賃金水準を引き上げ続けるchicken race(チキンレース=相手の車や障害物に向かい合って、衝突寸前まで車を走らせ、先によけたほうを臆病者とするレース)が生じるだけ。冷静に見れば、このchicken raceは、経営者にとって得るものはほとんどありません。生死がかかっている経営者たちは、政策当局者の机上の空論に踊らされるほどナイーブではありませんから、「人手不足賃金上昇価格上昇売上増大」というストーリーに素直には従いません。したがって、目先の賃金引き上げではなく、目先の労働投入量の抑制に心を砕くようになっていくでしょう。

l  もちろん、そのような状況下であっても、今後の半世紀において、日本経済が拡大し続けるという希望やビジョンがあるのであれば、長期的な経営計画の下で「人手不足賃金上昇価格上昇売上増大」という針路を選択する経営者も少なからず出てくるでしょうが、今後の半世紀における日本経済に関しては、誰がどう見ても、人口減少を主因とする経済不振が控えています。

l  2017年において、国内で生まれた日本人941000人。戦後最低であった2016年の977000人をさらに下回りました。その一方で、死亡数は戦後最多の1344000人に上り、出生数が死亡数を下回る「自然減」は初めて40万人を超える見込みです。2015年時点において12700万人を数えた日本の総人口は、40年後には9000万人を下回り、100年も経たぬうちに5000万人ほどに減ってしまいます。こんなに急激に人口が減少するのは世界史において類例がありません。それと同時に、「働き盛り人口(20歳~39歳)」が、今後、毎年100万人のスピードで減っていくわけですが、これは、毎年、ひとつの県が消失するのと同等のインパクトを持っています。

l  この「人手不足(就業者不足)」と「人口減(消費者不足・労働者不足)」という二重苦に加えて、中小企業においては、「後継者難(経営者不足)」という難問が発生しています。じつは、後継者難から会社をたたむケースが増えており、廃業する会社のおよそ5割が経常黒字という異常事態。2025年までには6割に相当する245万人の経営者が、平均引退年齢の70歳を超えると見られているのですが、現状、少なくとも127万社において後継者不在の状態にあります。現在の日本の企業数は、382万社(個人事業主を含む)と見られていますから、その3分の133.2%)以上が廃業予備軍ということになります。つまり、これから毎年5%近くの企業が廃業していくということが見込まれているわけです。こういう状況下で、楽観的に「人手不足賃金上昇価格上昇売上増大」というシナリオを描く経営者は少数派です。

l  ところが、「人手不足」「人口減」「後継者難」という三重苦の中、「毎年、ひとつの県が消失するのと同等のインパクト」が襲い掛かることが明らかであるにもかかわらず、それらの困難を打開するための政策は何も打ち出されていません。「労働削減=善」という宗教が布教されるだけです。そういう状況下で、賃金上昇という選択肢を選び、「人手不足賃金上昇価格上昇売上増大」というシナリオを描く経営者は、極めて愚かであるか、chicken raceに参加することによる自殺願望があるとしか思われないでしょう。

l  だから、経営者は守りに徹することになります。経営者が守りに徹すれば、賃金はなかなか上がりませんから、就労者(=消費者)も守りに徹せざるを得ません。そして、消費者(=就労者)が守りに徹すれば、「価格上昇売上増大」という戦略は失敗に終わる可能性が高くなります。だから、人手不足に苦しんでいるほとんどの経営者は、調節弁であるアルバイトの賃金を引き上げたとしても、正社員の賃金上昇に対しては慎重に対処しているのです。
金融危機, 証券取引所, トレンド, シンボル, 矢印, 方向, ダウン, 低迷
【Timely Report】Vol.75(2018.1.9)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  富裕国だったベネズエラが大変なことになっています。「21世紀の社会主義」を掲げ、賃上げや所得補填などで富裕層の富を貧困層に分配したところ経済が破綻。生活に困窮した人々が「移民」となって隣国に押し寄せています。

l  ベネズエラの惨状を見た韓国の主要紙が「韓国もベネズエラの二の舞になる」として文在寅政権の経済政策を大批判。経営の現場を無視した賃上げ政策の撤回を求めています。「最低時給1000円」を掲げる「所得主導成長論」が想定していた「賃金増➡雇用増消費増➡業績好転」というシナリオは実現せず、「賃金増➡雇用減➡消費減➡業績悪化」に陥ったと指摘しています。

l  じつは日本も韓国と同じ。「所得主導成長論」を掲げて、「賃上げすれば景気は良くなる」という前提で経済政策が運営されています。経営の現場を無視し、「物価が上がれば景気は良くなる」「時短をすれば生産性は上がる」「人手不足になれば経済は良くなる」という勘違いの中で、誤った賃上げ政策が処方されれば、経営の現場が疲弊するのは必至。20年後に日本が韓国やベネズエラのようになっていないことを切に望みます。
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