外国人経済研究所

外国人と経済の関係を解き明かしていきます。

タグ:日本経済

l  経済学者に対して、人口減少が日本経済に与える影響を尋ねると、「人口減少と高齢化は経済の停滞を運命づけるものではない。むしろ場合によっては、人口減少や高齢化が経済を活性化する可能性すらある」とか、「成長は1人当たりGDPの拡大による。その1人当たりGDPは、イノベーションで伸びる。供給側の事情を見ても、行き詰まっている社会の方が、イノベーションの動機は大きくなる」「労働力不足になると、飲食店が自動食器洗い機を買うようになる。そうした流れが加速すれば、最新の皿洗い技術が広く使われるようになる。そうした投資が行われれば日本経済の生産性は大幅に向上する」などと答えてくれます。要するに、人手不足になると省力化投資が増えて労働生産性が上がるから日本経済は成長するというのです。

l  この理論が正しいのであれば、限界集落や過疎の村、人口が長期減少している田舎では、省力化投資が進んで労働生産性が向上しているはずですが、そんな話は聞いたことがありません。こういう無責任な言説を垂れ流す経済学者たちは過疎の村に全員移住させて、村の経済の復活を託したいものです。
風景, 秋, 夕暮れ, 山, 今日の午後, 村
【Timely Report】Vol.104(2018.2.10)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  経済学者に対して、人口減少が日本経済に与える影響を尋ねると、「人口減少と高齢化は経済の停滞を運命づけるものではない。むしろ場合によっては、人口減少や高齢化が経済を活性化する可能性すらある」とか、「成長は1人当たりGDPの拡大による。その1人当たりGDPは、イノベーションで伸びる。供給側の事情を見ても、行き詰まっている社会の方が、イノベーションの動機は大きくなる」「労働力不足になると、飲食店が自動食器洗い機を買うようになる。そうした流れが加速すれば、最新の皿洗い技術が広く使われるようになる。そうした投資が行われれば日本経済の生産性は大幅に向上する」などと答えてくれます。要するに、人手不足になると省力化投資が増えて労働生産性が上がるから日本経済は成長するというのです。

l  この理論が正しいのであれば、限界集落や過疎の村、人口が長期減少している田舎では、省力化投資が進んで労働生産性が向上しているはずですが、そんな話は聞いたことがありません。こういう無責任な言説を垂れ流す経済学者たちは過疎の村に全員移住させて、村の経済の復活を託したいものです。
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【Timely Report】Vol.104(2018.2.10)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  8月下旬、菅義偉官房長官は、「外国人材がいなければ日本経済は回らないのが現実だ」と指摘し、「日本語を習得し、日本の良き理解者になった留学生が就職できずに失意の思いで国に帰る。そうしたことは避けるべきだ」と述べました。さらに、「卒業した留学生が日本に残って就職するのは36%にとどまっている。希望者の大部分が日本で働ける制度をつくるため、業種の幅をさらに広げるような在留資格をつくりたい」と語りました。

l  全国外国人雇用協会は、当面の活動方針として、「労働基準法が定める均等待遇を実現すべく、日本もしくは海外の大学を卒業した外国人に関して、日本人大卒が就労可能な業務に関し、『技術・人文知識・国際業務』の在留資格該当性を求めていく」ことと、「日常会話に不自由がなく日本の文化に慣れ親しんだ留学生に関して、『技術・人文知識・国際業務』への在留資格変更を広く許可すべきである。特に現場実習の実施に関しては、日本人と同等の扱いを認めるべきである」の2点を掲げています。当協会の方針に合致する極めて正しい方向性を打ち出した菅長官の辣腕に期待したいと思います。
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【Timely Report】Vol.239(2018.9.4)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  「労働力不足」で追い詰められている経営者は必死です。「受注はあるのに残業は増やせない」「募集をかけても日本人は来ない」「末端価格が上がらない中での単価の引き上げは難しい」という困難な局面の中で、外国人労働者の受け入れを選択し、技能実習生やアルバイトに依存するようになりました。しかし、そうした裏口からの外国人雇用において様々な問題が発生し、制度上の無理も生じたため、今回安倍政権が「特定技能」の新設を含めて、「外国人受け入れ政策」を決意しました。そのことは、施策の詳細や現場を担う入管の思惑はともかくとして、「政策論」としては正しい方向です。これ以上、「経済メカニズム」を無視して、人工的な「労働力不足」を演出し、その不足度合いをさらに加速することに、政策上のプラスはありません。

l  しかし、詳述したように、日本経済が抱えている病巣は、それだけで解決されるような生易しいものではありません。人口減少で国内市場が細っていくとみられる中で、「年功序列型賃金」や「年次競争システム」に代表される人事制度とマネジメントを抜本的に変革することが必要だからです。これは、単純な財政出動や金融緩和で解決できる問題ではありません。経済政策を立案する際には、この難題を解決するまでは、「労働力不足」によるマイナスの影響を「外国人受け入れ政策」で点滴しながら耐えしのぎ、日本人にも外国人にもフィットし、「頑張れば報われる」という人事制度に組み替えて、日本企業が新たなマネジメントの中で完全復活する準備が終わるまで、相当困難な綱渡りをしなければならないと覚悟しておくべきです。

l  現在の日本企業が抱えている「労働力劣化」を解決するためには、就労者に「夢」を与える人事制度が絶対に必要です。また、それは同時に、これから採用する外国人にも「夢」を与える制度であるべきです。いま日本企業は、グローバルな人材獲得競争においても負けない人事制度を構築して、実際に運用することが求められているのです。そのためには、「5年~10年で年収1000万円になれるチャンスを与える人事を可能にする制度をイメージする」ことが重要になってきます。これは、「同一労働同一賃金」と同じく、「年功序列型賃金」や「年次競争システム」を改革することを必要とします。若者だって、女性だって、中途入社組だって、外国人だって、日本企業において、「向上心があって、勤勉で、ハードワークを厭わない」活躍をして、成果を上げれば、「5年~10年で年収1000万円になれるようなジャパニーズドリームを創る」ことが求められているのです。

l  かつて、アジアで一番高いとされてきた日本の賃金は、中国や韓国の一部の大企業と比べて後塵を拝しつつあります。例えば、民泊仲介サイト世界最大手・米Airbnbの韓国におけるコールセンターの仕事だと、週5日・1日8時間勤務で、月給最低200万ウォン(約20万円)、退職金やボーナス、社員寮がついていると言います。実際、最近も、約20人の日本人スタッフが韓国で就労していました。日本だと、コールセンターの平均時給は、アルバイトで990円~1100円で、派遣社員だと1200円~1340円。最大値の1340円で18時間週5日を4週間働いたと考えると214400円になります。要するに、韓国だとほぼ賃金が同程度で、退職金やボーナス、社員寮があるということなので、「日本国内より高い」「自分より高待遇」という評価になっているのです。また、若者の高い失業率に喘いでいる韓国では、その若者たちを日本企業で就職させる施策を打ち出していますが、その担当の外交官ですら、「日本企業は初任給が安いでしょ。日本で労働力不足だという職種は、その中でもさらに給料が安いことが多い。韓国企業の方が高い給料を出すから、韓国の若者はその水準を考えながら就職先を探そうとする。ミスマッチが多くて苦労するんですよ」と語っています。

l  ちなみに2017年の採用市場においては、中国の通信機器大手ファーウェイが日本で大卒エンジニアを「初任給40万円」で募集したことが話題を集めました。日本の大卒初任給の平均は20万円で、エンジニアであろうと事務職であろうと初任給は変わりませんから、「優秀な人材が流れてしまうのではないか?」と大激震が走りました。じつは、エンジニアの給料が高いのはファーウェイに限りません。中国のハイテク企業のエンジニアで年収1000万円を下回る人はまずいないとも言われています。いま日本企業は、「優秀な人材に夢を与える政策」で後手を取り、完全に後れているのです。

l  実際、スイスのビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)が2017年、世界の高度技能者を対象に実施した調査によると、日本はアジア圏で「最も働きたくない国」だと認定されました。世界63カ国の中でも51位と非常に低いステイタスです。また、英大手人材会社HAYSが、この116日に公表した調査(世界33の国と地域を対象)でも、日本は、IT分野などの高度なスキルを持つ人材を確保するのが最も難しい国だと認定されています。「横並びの給与など従来型の評価制度や日本の教育内容に問題がある」ということが理由として説明されました。彼らが問題視している「従来型の評価制度」とは、「年功序列型賃金」や「年次競争システム」を意味しています。

l  実際、賃金構造基本調査(2019年)を見ると、最も高い大企業(男性)の賃金カーブですら、202422.0万円(年収換算264.0万円)➡252926.6万円(同319.2万円)➡303431.8万円(同381.6万円)➡353936.4万円(同436.8万円)➡404440.9万円(同490.8万円)という水準です。したがって、いまの日本企業の給与体系の下では、「510年間で年収1000万円プレーヤー」という夢を与えることはできません。そういう施策を打たずに、「特定技能」の単純労働者ばかりを議論しているから、「外国人受け入れ政策=低賃金の単純労働者受け入れ」と批判されるのです。そういうマイナスイメージを払拭するためにも、日本企業は、「510年間で年収1000万円プレーヤーになれる」という人事体系を打ち出すべきです。

l  日本企業がその夢を与えるためには、「年功序列」や「年次競争システム」を壊さなければ不可能です。しかし、ベンチャー企業や一部のIT企業では、すでに現実的に対応していることでもあります。何らかの形で「飛び級的」「飛び年次的」な人事制度を導入して、実質的に「年功序列型賃金」や「年次競争システム」から抜け出した人事制度を導入することが必要になってきます。そして、そうした人事改革が必要であることを理解し、行動に移した日本企業が生き残っていくことになるでしょう。そして、多くの日本企業が「年功序列型賃金」や「年次競争システム」を大改革し、「職務給」的な体系になり、実力に見合う給与を支給できるようになれば、「上昇志向はなく、プライベートに熱心で、ハードワークを厭う」というキャラクターになってしまった日本人労働者の中から、「向上心があって、勤勉で、ハードワークを厭わない」という美質を持つ人材が選別されてくるでしょうし、転職の際における外様社員の差別は、いまよりもずっと緩和されるはずです。

l  2019年は、「労働力不足」の中で、少なからぬ企業がさらに厳しい事態に追い込まれていきます。そんな中、外国人労働者の受け入れによって、「労働者不足」の問題が緩和される期待が醸成されていきますが、今度は、「労働力劣化」の問題が表面化してきます。しかし、入管の現場が、外国人労働者の受け入れ増大に対して嫌がらせをする場合は、「労働者不足」と「労働者劣化」のダブルパンチが、経営者に見舞われることになるでしょう。実際、審査の現場を窺うと、入管は外国人労働者の受け入れに賛同していない節が随所に感じられます。また、本稿では触れていませんが、消費税が増税されれば、メガトン級のダメージが襲い掛かります。そういう意味で、2019年は、2018年よりも厳しい年になることを覚悟する必要がありそうです。
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【Timely Report】Vol.320(2019.1.4)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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l  あけましておめでとうございます。2019年の年初でもありますので、本稿においては、日本経済が今年直面する課題について記述することにします。

l  日本経済は、現在、「人手不足(就業者不足)」「人口減(消費者不足・労働者不足)」「後継者難(経営者不足)」という三重苦に見舞われています。そして、経営者たちは、そのような困難な状況の中で、「毎年40万人の人口減=ひとつの県が消失するのと同等のマイナスインパクト」が襲い掛かるという試練に必死で耐えています。こういう状況下で、楽観的に「人手不足賃金上昇価格上昇売上増大」というシナリオを描く経営者は圧倒的に少数派です。だから、経営者は守りに徹することになります。

l  経営者が守りに徹すれば、賃金はなかなか上がりませんから、就労者(=消費者)も守りに徹せざるを得ません。そして、消費者(=就労者)が守りに徹すれば、「価格上昇➡売上増大」という戦略は失敗に終わる可能性が高くなります。そうなれば、ますます経営者は守りを固めます。だから、人手不足に苦しんでいるほとんどの経営者は、調節弁であるアルバイトの賃金を引き上げたとしても、正社員の賃金上昇に対しては慎重に対処しているのです。そして残念ながら、現時点においては、日本経済における「労働力不足」は危機的な様相を示しており、放置すれば、さらに悪化することが明白です。放置することにより改善されたり、自然に解決することはありません。

l  「労働削減=善」という完全に誤った思想に突き動かされた現在の経済政策は、「経済メカニズム」の機能を無視して、人工的な『ヒト不足』を演出し、その不足度合いをさらに加速しようとしています。2018年は、その悪影響が表面化した年でした。一刻も早く「労働力不足」に対する是正策を講じなければ、日本経済に少なからぬダメージをもたらしていくことでしょう。

l  この点、さすがに、国家運営の経験が長い自民党は、外国人嫌いの保守派を大量に抱えつつも、「外国人受け入れ政策」を提示し、「入管政策の大転換」に踏み込もうとしています。「絶対に移民政策はとらない」と明言していた安倍首相すら取り込んで、国家に必要な政策を推進しようとする姿には、野党との「器」の違いを感じさせられます。しかし、それだけで、日本経済を取り巻く諸問題が立ちどころに解決するわけではありません。というのは、「労働力不足」の問題に加えて、「労働力劣化」という悩ましい問題が発生してくるからです。本稿では、その問題を解きほぐしていくことにします。

l  まずは、表面的に表れている日本経済の現状を、諸統計で確認しましょう。201810月の完全失業率は2.4%(季節調整なし:2.7%)であり、有効求人倍率は1.66倍(季節調整なし:前年同月1.58)という高水準を記録しています。したがって、議論の余地がないほど、経営者や雇用者たちは「人手不足」で危機に陥っています。正社員の有効求人倍率も1.15倍(201810月)と1倍を超える水準を続けています(前年同月1.06倍)が、月間における正社員の充足率は、20社に1社(5.0%)程度しかありません。

l  一方、需要動向を見ると、201879月のGDPは、5年半ぶりに前年を下回りました(前年比▲0.3%)。国内市場の大きさを示す「民間最終消費支出(名目・持ち家の帰属家賃を除く)」の前年比が+1.4%程度しかない状況下で、民間住宅が前年比▲5.2%と落ち込んだのが大きく響きました。「民間最終消費支出(名目・持ち家の帰属家賃を除く)」の前年比の推移を辿ると、国内市場は、底割れこそしていないものの、活況を呈しているわけでないことが確認できます(201779月+1.0%➡1012月+1.9% ➡ 201813月+1.2% ➡ 46月+0.3%➡79月+1.4%)。リフレ派の論者たちは、「物価が上がれば景気は良くなる」と未だに唱え続け、「台風の影響で封鎖された関西国際空港からの輸出減といった特殊要因が重なった」「自然災害により、一時的に個人消費が押し下げられた」などと一時的な要因をあげつらっていますが、どう見ても、この1年間が、経営者や雇用者が、ポジティブにワクワクドキドキする経済環境でなかったことは明らかです。

l  ここで労働市場の現状に目を転じると、201810月の就業者数は6725万人(前年比+2.2%)に達し、既往最高を記録した同年5月(6698万人)を、前月の9月(6715万人)に続いて超えました。20185月に超えるまでの既往ピークは、6679万人(19976月)でしたから、国全体として「就労可能な日本人の労働化率」を大幅に高めてきたことが確認できます。ちなみに、生産年齢人口に対する就業者数の比率をみると、19976月が76.8%に過ぎなかったのに、201810月には89.1%の高水準に達しました。無論、この比率が90%を超えていくことを想定することは絶対に不可能ということではありませんが、生産年齢人口が減少していくことが明白な中で、「日本人の枠内」だけで、「労働力不足」に対処することが極めて困難であることだけは明らかです。その意味で、今回、自民党が、「拙速」という批判を受けながらも、「外国人受け入れ政策」の実施を決心したことは、さすがに長年日本という国を運営してきた政党だけのことはあります。

l  しかし、安倍政権における経済政策ブレーンたちの力量は心配です。いまだに、「物価が上がれば、景気が良くなる」とか「労働時間を減らせば、労働生産性は向上する」という邪教に侵されたままで政策を設計していますから、政策効果が、日本経済を悪化させている要因を改善する方向に効きません。政策効果は、まず以て、正確な経済の現状分析に立脚します。現状を正確に診断できなければ、その処方箋が患者に効かないことはもとより、最悪の場合には病を悪化させてしまうでしょう。2019年は、「働き方改革」(韓国の事例をみれば劇薬です:後述)や消費税増税の対処(本当は延期すべき)を誤ると、病は悪化します。昨年11月末に、国際通貨基金(IMF)は、日本の経済情勢を分析する報告書を公表し、「日本は人口減によって、今後40年で実質国内総生産(GDP)が25%以上減少しかねない」という警告を発しました。人口減による需要減と供給力の低下は、それだけの破壊力を秘めているのです。2019年にそのマイナス面が表面化しないことを切に祈ります。

l  上記のように課題満載の経済情勢の下で、多くの経営者や雇用主の主たる関心は、「売上拡大」や「新規市場への進出」という攻めの一手ではなく、「円滑な採用」「離職の抑止」「雇用トラブルの回避」という守りの諸施策に向かっており、「安定的で健全な人手の確保」という「生き残る企業であるための不可欠な経営基盤」のディフェンスに費用と時間を割き、雇用問題に日々心を砕かざるを得ない環境に置かれています。デフレ経済に慣れてしまった消費者が値上げに「NO」と言い続ける中で、経営判断としての値上げは極めて困難であり自殺行為です。国内市場にしか拠る術がない国内企業においては、賃金上昇のコストアップが企業体力を着実に蝕んでいます。多くの日本企業は、「受注はあるのに残業は増やせない」「募集をかけても日本人は来ない」「末端価格が上がらない中での単価引き上げは難しい」という困難の中で追い込まれているため、目に見えて「人手不足倒産」が増えてきました。

l  東京商工リサーチによれば、2018年度上半期(49月)における「人手不足」関連の倒産(219件)が前年同期比52.0%増と大きく増え、「求人難」型が前年同期の16件から35件と倍増しました。また、帝国データバンクの調査でも、2018年度上半期(49月)における人手不足倒産の件数は76件で、前年同期比40.7%22件)増であり、「高待遇での従業員確保が困難な小規模企業を中心に『人手不足倒産』のさらなる増加が懸念される」とも予測されています。また、マイナス金利の影響で業績悪化が著しい地銀が取引先支援を打ち切り、息切れ倒産が増えるのではないかとも噂されています。

l  東北・関東地方で貨物自動車運送をしていたサンワ物流は、自社トラックでビール、飲料品などの搬送をし、20099月期で年間約4億円の収入がありましたが、求人を出してもドライバーが集まらない状況が続き、ドライバー不足で受注を見合わせるケースが相次ぎ、業績が落ち込んで倒産。堺市堺区で高齢者の介護、福祉事業を営んでいた社会福祉法人美亘会は、2015年度で7,430人のデイサービス利用者、6,452人のヘルパー利用者を抱えていたのですが、介護職員らの入れ替わりが激しく、慢性的な人手不足と人件費増などで赤字経営に陥って破綻。北海道で23の介護施設などを運営していたほくおうサービスとグループ4社は、20163月期で約276,800万円の売り上げがありましたが、介護報酬の引き下げや人手不足による人件費高騰が経営を圧迫し、身売りに追い込まれました。今後も同様の破綻事例が日本全国で発生する可能性が否定できません。

l  「安い・早い・うまい」で業界を先導してき吉野家ホールディングスも、201838月期連結決算で、最終損益が8期ぶりに赤字(▲8.5億円:前年同期+13億円)になりました。主力の牛丼店「吉野家」は増収を確保しましたが、人手不足を背景にした人件費高騰が響きました。20192月期通期でも最終損益は▲11億円の赤字(前期は+15億円)の見込みです。38月期の売上高は、メニュー改善や家族層への値引きなどのキャンペーンが奏功し、前年比3%増で初の1000億円台に達したほか、既存店売上高も4%増えるなど、販売面は比較的好調でした。しかし、肉やコメなどの食材価格が上昇し、原材料費を含む売上原価は359億円と+6%増に。人件費などを含む販管費の負担が重く、営業利益は5500万円にとどまり、▲97%減と大幅に落ち込みます。採用や教育、既存従業員の残業代など人件費が膨らみ、販管費は643億円と5%増加した上に、不採算店舗の閉鎖などに伴う特別損失を計上したため、最終赤字になったといいます。

l  これが、吉野家という個別企業の問題に収まるのであれば、市場では優勝劣敗が必定ですから、その分誰かが勝者になるだけなので、経済全体としては問題ありません。問題は、本当に個別企業の問題にとどまるのかという点です。財務省が発表した7~9月における日本企業の経常利益は、前年比+2.2%の182847億円となり、この時期としては過去最高を記録しましたが、日本国内に利益機会を見出せないための投資・経費削減によるものという側面が否定できません。実際、日本企業の設備投資は、エコノミストたちの予想を裏切り、伸び悩みの段階から低迷局面へと突入しています。

l  例えば、人手不足が常態化する中、リクルートなどの大手企業だけを見て、人材関連業界は活況だと勘違いしている人もいますが、労働者派遣業者では人手不足で倒産が増え、小規模事業者を中心に淘汰の動きが進んでいます。帝国データバンクの調査によると、2018年の110月までに発生した労働者派遣業の倒産件数は、前年同期比8.0%増の54件で、前年を上回るペースで推移しています。このペースで推移すると、2013年以来3年ぶりに前年を上回る可能性が出てきました。企業は人手不足感を強めており、労働派遣業に対する需要が高まっていますが、労働者派遣事業者では、法改正の影響に加え、派遣スタッフの不足からコストが増加しており、中小・零細事業者を中心に倒産件数が増加しているのです。

l  経営者たちは、こうした厳しい日常と日々対峙していますから、政策当局者たちが思い描いている「人手不足➡賃金上昇➡価格上昇➡売上増大」という針路ではなく、「人手不足➡拡大抑制➡賃金抑制➡縮小均衡」という「まずはとにかく生き残る」ことを優先した経営戦略に傾斜しています。その傾向は2018年よりも強くなってきました。つまり、成長を追い求める「売上増大」ではなく、生き残るための「粗利増大」を選択しているのです。そして、経営者が「売上増大」ではなく、「粗利増大」を優先すれば、コストのうちの大きな部分を占める賃金に対して、抑制的に臨むというのは至極当たり前の経営戦略になります。「人手不足なのに賃金が上がらないのは謎」という学者たちは、「経営戦略」とか「企業経営」とか「経営者心理」というものがまるきりわかっていないというだけのことなのです。

l  それにもかかわらず、一部の経済学者やマスコミは、経営の実態を無視して、今回の「外国人受け入れ政策」に関しても、深刻な「労働者不足」に陥っている現状を称賛し、「人口減少と高齢化は経済の停滞を運命づけるものではない。むしろ場合によっては、人口減少や高齢化が経済を活性化する可能性すらある」とか、「成長は1人当たりGDPの拡大による。その1人当たりGDPは、イノベーションで伸びる。供給側の事情を見ても、行き詰まっている社会の方が、イノベーションの動機は大きくなる」「労働力不足になると、飲食店が自動食器洗い機を買うようになる。そうした流れが加速すれば、最新の皿洗い技術が広く使われるようになる。そうした投資が行われれば日本経済の生産性は大幅に向上する」などと主張し、人手不足になると省力化投資が起こり、労働生産性が上がるから日本経済は成長すると発言しながら、外国人労働者の受け入れに反対しています。

l  それだけではなく、最近では、「外国人労働者を入れると、低賃金労働者を前提とするビジネスモデルが変革しないから反対」とか、「経営者が極限まで追いつめられれば、生産性向上の道が開ける」という勇ましい声まで聞かれるようになりました。こういう机上の空論で無責任な論説を垂れ流す輩には呆れるほかありません。彼らが唱えている理論が正しいのであれば、限界集落や過疎の村、人口が長期減少している田舎では、省力化投資が進んで労働生産性が向上しているはずですが、そんな話は聞いたことがありません。琵琶湖に浮かぶ沖島では、30年前520人だった人口が現在は250人と半減しました。人手不足が技術革新や生産性向上やビジネスモデルの変革を産み出すのであれば、沖島は「日本のシリコンバレー」になっているはず。しかし、ゴミ処理にすら立ち往生しているのが現状です。

l  客観的に企業行動を観察しましょう。アートネイチャーは、2017年にカンボジアのかつら縫製工場を香港企業に売却しました。新設からわずか3年の決断です。方針転換した要因の一つが人件費の上昇でした。カンボジアでは、輸出品の6割を縫製業が占めており、日本企業の進出も続いています。そんな中、縫製業や製靴業に適用する2018年の最低賃金は前年比11.1%増の月170ドル(約19千円)になり、2012年の3倍近くに上がりました。フン・セン首相は去年3月、2023年までに最低賃金を月250ドルに上げると表明しています。これが撤退の理由でした。要するに、労働者の生産性向上を伴わなければ、賃金の上昇は、ビジネスモデルの革新を招くことなく、企業の撤退を招くという結果になりがちなのです。想像してみてください。ただでさえ、人手不足で難儀している「日本」という地域で、工場新設などの新規投資をしようと思う経営者はいるでしょうか。いるはずがありません。

l  つまり、ビジネスモデルを大きく変革するためには、対象とする市場が今後大きく成長するので投資に見合うという強い期待があること、新しいビジネスモデルに見合った一段上の生産性のレベルに労働者が成長する見込みがあること、その投資を行う場所としてその地が最適であること、という3つの条件が必要です。これらの条件が揃わなければ、経営者がその地域でビジネスモデルを革新することはありません。その地域でのビジネスを縮小するか撤退するだけです。そして、日本の経営者たちのマインドは「縮小」に向かっています。人口減少が進む「日本列島」は、世界から見れば「沖島」のようなもの。無責任な論者たちには、全員、沖島か過疎の村に移住してもらい、起業していただいて、村や島の経済の復興を託したいものです。
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