l  しかしながら、マスコミ報道を見ると、「年末年始、休業増える 外食や住宅働き方改革で」(時事通信:2017.12.29)や「働き方改革!飲食店や携帯ショップ 元日休業広がる」(テレビ朝日:2017.12.31)など、年末年始にかけて企業が休業を増やしていることを、「家族や友人との時間を大切にしてもらう」「休業にした方が従業員の心も体も健康になる」とか「従業員が家族と過ごす時間を増やすことで、仕事への意欲を高め、人材の定着につなげたい」という美談にすり替え、「働き方改革」を称賛しています。つまり、政策の「宗教化」が進んでいるのです。

l  マスコミが「労働削減=善」というキャンペーンを展開し続ける間、政策当局者らは、自分たちの「政策の正しさ」を実感できますから、政策の見直しは不要になります。じつは、自分たちが振り付けしたとおりに、マスコミが躍ってくれているだけですから、「政策の正しさ」が立証されているわけではないのですが、上層部からお叱りを受けることもありません。このため、「労働投入量の不足による諸問題の表面化」という呪いの恐ろしさに気付いて、経済政策を方向転換するまでには、かなりの歳月を要するでしょう。

l  実際、大晦日は、「テング酒場」等を運営するテンアライドが120店を一斉休業にしました。ロイヤルホストは全国220店舗のうち9割以上になる209店舗で元日の営業を取りやめ、天丼専門店「てんや」でも200店舗のうち7割以上を休みにしました。大戸屋も直営店146店舗のうち80店舗で休業。コンビニでも「セイコーマート」が過半数の店舗で元日休業に踏み切っています。大和ハウス工業は1/3までの住宅展示場240カ所の営業をすべて休止させ、三越伊勢丹が初売りを1/2から1/3に後ズレさせたほか、携帯電話各社でも販売店を自主休業させていると報じられました。

l  じつは、上記のような「休業」の動き(営業時間短縮)は、地方工場や中小飲食において、かなり前から広がっています。体力がない企業は、正社員を昇給させて、その分を主力商品の値段に上乗せするのではなく、供給を絞る戦略を選択し、24時間稼働を16時間に短縮したり、「夏休み」と称する休業で対応してきました。しかし、こうした中小企業における操短や休業を取材して、「働き方改革」として称賛した記事はひとつもありません。当たり前と言えば、当たり前です。時短や休業をしている中小企業の経営者に聞いても、「人手不足だから仕方がない」という本音を答えるだけで、大手企業のように、「家族や友人との時間を大切にしてもらう」などという美辞麗句を並び立ててくれないからです。中小企業にそんな余裕はありません。

l  なお、「人手不足」については、「AIやロボットで賄えばよい」という勇ましい言説もみられますが、少なくとも半世紀は続くと見られる日本人の人口減少のインパクトを相殺できるほど、AI化やロボット化が進むわけではありませんし、仮に進んだとしても大きな問題が残ります。日本経済が直面している問題は、単なる「人手不足」ではないからです。

l  じつは、支える担い手である「生産年齢人口(15歳~64歳)」よりも、支える対象である「老年人口(65歳以上)」が多いという構造問題が最大の難点です。百歩譲って、AIやロボットで「人手不足」を解消できたとしても、彼らは税金や社会保険料を支払ってくれるわけではありませんから、「生産年齢人口」が「老年人口」よりも少ないという構造問題は解決されません。少子高齢化が進む中で、年金をどう維持するか(社会保障の問題)、健康保険をどう維持するか(医療費の問題)、コミュニティをどう維持するか(限界集落の問題)は全く解決されず、放置されることになります。

l  したがって、「AIやロボットで賄えばよい」あるいは「人手不足の今こそ技術革新のチャンス」などという政策論は、「木を見て森を見ない」政策であるということになります。個別企業の経営論として、AI化やロボット化を進めることは必要であり、不可欠な戦術になるでしょうが、マクロの経済政策として論じるのは、宗教の類に近いというしかないのです。

l  このように、マスコミ記事の信憑性は落ちています。その象徴は、年末に話題となった2017年「新語・流行語大賞」でトップテンに選ばれた「フェイクニュース」の扱いではないでしょうか。「フェイクニュース」の定義について、朝日新聞社が発行している『知恵蔵』は「主にネット上で発信・拡散されるうその記事を指す」と解説しました。しかし、この定義こそが「フェイクニュース」です。「フェイクニュース」という言葉の本家本元であるトランプ米大統領は、CNNや大手新聞等の既存マスコミを指して、「フェイクニュースだ!」と罵倒していました。日本で言えば、朝日新聞やTV報道を「フェイクニュース」として罵倒したのであって、ネットを批判したわけではありません。加計学園の報道でも問題になりましたが、マスコミは、自分たちの描いたストーリーと合わない場合は報道しないか、内容を捻じ曲げてしまうのです。経営者にとって2018年は、こうしたフェイクニュースに騙されないで、経営戦略を練ることが求められる年になるでしょう。
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【Timely Report】Vol.75(2018.1.9)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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